畳の再評価

様々な力を秘めたい草と畳ですが、国内での生産量・使用量は年々減少しているのが現状です。これは日本人の生活の西洋化や「フローリングがお洒落」といった風潮がメディアを中心に広められたからでしょう。
逆に海外では畳やい草がお洒落でエコなものとして、注目を集めていることとは皮肉な対照です。近年、アトピーやぜんそく、シックハウス症候群といった、様々な病気が言われるようになったことと、これは果たして無関係でしょうか。フローリングの部屋が日本全体の60%にも達した今、私たち日本人は、い草との関係を見直す時なのかもしれません。

 

安い畳にはご用心

い草のもつ力をお話ししてきましたが、実のところ畳ならば全てOKというわけではありません。ここからは一般の方には届きにくい少し専門的お話です。 どんなものにでも良いものとそうでないものがあるように、畳にも善し悪しがあります。畳の品質を決めるのは、原料となるい草の品質です。良質のい草とは、丈が1m30cm以上にしっかりと育ち身の入ったものをいいます。一方、大量生産の畳に使われていることが多い未完熟のい草は、時間とともに変色してペタンコになります。下の写真は私が全く同じ手順で仕立てた畳ですが、違いは一目瞭然です。

 
【左が良質のい草でつくったもの、右が未完熟のい草でつくったもの】
 

この2枚、できあがった時は見た目も座った感触も全く同じでした。それが数年という時間を経るとこれだけの違いが出ます。右の畳に黒い筋が入っているのは、年老いた短いい草と未完熟のい草が変質したため。これでは見た目はもちろん、これまでお話ししてきたい草の素晴らしい力も発揮されません。 畳は一度取り替えると数年はそのままの方が多いと思います。次の畳替えのときには、せっかくですから良い畳を選んでください。

 

い草生産農家の話
   
 
熊本のい草生産農家の刈り取り風景

畳屋がい草をどうやって手に入れているかご存じですか。い草を育てている人から買って? いいえ違います。多くの畳屋が、農家からい草を仕入れる仲買業者・問屋から買うのです。 別のページでお話ししていますが、私たち夫婦は生粋の畳職人ではありません。ですからこの業界の当たり前を不思議に思うこともありました。い草の流通についてもそう。できるだけ良質ない草だけで畳をつくりたいと考えた時、それを手に入れるシステムが業界に無いことに気づいたのです。
そこで私たちは、い草生産の盛んな熊本の農家を訪ねて、独自の流通路をつくることから始めました。仕事は違っても志を同じくする人はいるものです。良い出会いにも恵まれて、現在は産地直送のい草を分けていただけるようになりました。しかし一方で、農家の方たちと交流するうちに、国産い草を取り巻く厳しい状況にも気づかされたのです。

熊本のい草生産農家の刈り取り風景

前述の「安い畳にはご用心」でも触れましたが、いま畳業界に押し寄せているのは中国産い草の台頭です。中国の安い労働力で大量生産される畳表(たたみおもて)が輸入され、全国どこでも安く畳が買えるようになりました。これは消費者にとっては良いことのように思いますが、そうとばかりも言えない事情があります。
最も深刻なのが安全性への意識の違い。中国産食品の危険性が連日報道されていますが、これは畳の世界でも同様です。本来なら室内の空気を浄化して、住む人を健康にしてくれる畳が、逆に知らず知らずのうちに身体に害を及ぼしてしまう……。畳は直接人の肌に触れる床材ですから、影響はとても無視できません。
そして大半の日本人が安さだけにつられて中国畳を使っている現在、真面目に国産い草を育てている農家の生活は急速に苦しいものになりつつあります。い草の刈り取りや染めなどに必要な機械をつくる、機器メーカーが成り立たなくなってきています。現在すでに、い草農家の方々は廃業した農家から機器を購入するなどして凌いでいるのです。そして一番の問題は、そんな崩壊寸前とも言うべき国産い草の現状を、最も知るべき問屋や畳屋自身が殆ど理解していないと言う事です。不況で安さが求められ、多くの問屋や畳屋が中国産い草ばかりを選んでいます。素晴らしい畳の力など欠片も持たないそんな畳を押し付けられて、使う人も「やっぱり畳よりフローリングがいいや」となっているとしたら、これほど悲しい事はありません。

刈り取ったい草の積み込み風景

いま私たち日本人自身が考えを改めなければいけません。さもなければ、いずれ本物の畳は絶滅し、畳モドキだけの世の中になってしまいかねないのです。
畳師としてい草のことを勉強し、生産農家の方を訪ねる中で、私たち日本人と共に育ってきた国産い草の畳を、しっかりと守っていかなくてはとの思いを強くしました。これがこのHPをつくった大きな理由です。

 

住む人のために安心・安全な健康畳を

私たちが農家さんから分けて頂いているのは、有機肥料減農薬栽培の完熟した国産い草です。「多くの業者が青い畳表を良いものとして取り扱うので、一般の人もそう思いがち。そうなると人間の都合でい草を育てることになるので、完熟した畳表が少なくなるのです」。そう嘆く農家からの言葉に感銘を受けて、時間と共に味わいを増す、完熟い草の素晴らしさを広めなければと考えるようになりました。 上質ない草でしっかりと織られた良質な畳表は、目が積んでいて(中身がしっかり詰まっているという意味です。良質な畳表は、そうでないものに対して倍近くのい草で織られています)、ホコリが内部に入らず健康面にも非常に良いのです。アレルギー・アトピー・シックハウス症候群などでお悩みの方は、まず足下の畳に目を向けてみてはいかがでしょう。

へり無し半帖畳で敷き方を変えると、変化を楽しめる。
市松模様に見える半帖の敷き方。

 

 
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